もう健診は受けない

ふつうの会社勤めのかたなら、毎年健康診断を受けているはずです。
事業者は雇った労働者に対し、年1回以上医師による健康診断を行わなければならないと、労働安全衛生法に定められていて、違反者には罰則が科せられるとのこと。年1回以上なんだから、十回でも百回でもいいんだけど、費用かかるから、年2回も実施する経営者はいないでしょう。

私の健診歴

華やかOL時代には、私も健診を受けていました。仕事の合間に近所の内科へ行って、血液検査、尿検査、胸部エックス線撮影など。
検査結果はまとめて会社に送られ、個人に通知は行きません。
「ルノさん、こないだの健診で貧血気味だったから、内科で診てもらってね」と、総務課の社員に言われたりしました、プライバシーもへったくれもあったもんじゃない。

年を取るにつれ検査項目が増え、胃腸婦人科がん検診つきの半日ドックになり、最後の年は大学病院で1泊2日の人間ドック。出勤扱いだし、費用はすべて会社もち。わりと太っ腹な企業だったようです。ドックになってからの記録は自分で持っています。

それまでに指摘を受けたのは、貧血(血色素不足)と胃炎くらいです。おおむね健康体といえましょう。

退職して国民健康保険に変わると、自治体から「健診を受けましょう」というお知らせが来ます。
せっかく健診義務から解放されたんだからのんびりしておけばいいのに、長年しみついた健診体質がほっとかせず、退職の翌年、国保の健診を受けました。
結果は・・・ちょびっと太ったものの、全く異常なし。胃のバリウム検査ではたいてい病変を指摘され、胃カメラを飲まされたものですが、すっかり治っていました。会社勤めのストレスって、やっぱり胃に来るんですねえ。
そういえば、長年悩んでいたじんましんなんか、退職の翌日に突如完治し、以後1度も出たことがありません。
健康になりたければ、失業しよう。

ところでその健診の際、乳がんの触診を行ったのがいやらしげな中年男性医師で、「もう子ども生まないの? もったいないねー」とか「大きいと時間かかるよねー」などと言いながら、必要以上にモミモミ。たいそう不愉快な思いをしました。

そのせいかどうか、それから十数年、健診や検診とはごぶさた。

ある日乳がん検診無料券というものが送られてきたので、近所の乳腺専門病院で使ってみました。
内容は触診とマンモグラフィ。触診担当はやや若い男性医師で、そっぽを向いてさわるんです。じろじろ見ちゃいけないと言われているのかしら。時代の流れを感じてしまいました。視診だって重要だと思うんですけどねえ。

結果は異常なし。
検診結果通知書

2年後。
気まぐれというか、魔が差したというか、久方ぶりに国保の健診を受けることにしました。
費用は500円。自治体によれば、本来1万円ほどかかる検査内容だとか。もちメタボ検診も含まれます。
2年に1度の受診が推奨されている乳がん検診(1,000円)を追加しました。体格やライフスタイルが乳がんタイプって自覚があるもので。ちなみに、乳がんになりやすい女性は骨粗しょう症とは無縁という説を読んだことがあります。どっちがましかって? どっちもやだ。

健診は市の健康管理センターみたいなところで行われています。
乳がんの触診は70歳過ぎとおぼしき女性医師で、きっとベテランなのでしょう、腕を上げ下げさせ、しっかり見てしっかりさわってくれました。
マンモグラフィは建物の中ではなく、駐車場の検診車で行いました。後に聞いた話では、大きな病院で導入されている高価なマンモ機よりも、検診車の機械のほうが被ばく線量が多いとか。

前の健診では検査結果が郵送されてきただけですが、今回は3週間後にまた出向いて、結果表を受け取るとともに、保健師による面談と生活指導を強要されるという面倒さ。健診に対する市の意気込みが感じられます。
文句なしの健康体というお墨付きを得ました。

なお、オプションで受けた乳がん検診の結果は、ひと月後に郵送とのこと。

精密検査

その乳がん検診の通知書が届きました。
ん? 前回はぺらっとした紙1枚だったのに、今回はやけにぶ厚い。開封すると、『所見が認められます。乳腺専門の木両機関で詳しい検査を』『精密検査が必要です。乳腺専門医を受診のこと』と、なぜか2枚の紙、専門医院一覧表が1枚、封をした紹介状(これが分厚さの原因)が入っていました。
検診結果報告書

がん検診で要精密検査を宣言されるとショックでしょうね。
頭の中が真っ白になる人もいるでしょう。目の前が真っ暗になる人も・・・。
要精検

私はどうだったかって? あちゃー。でも乳がんタイプだしーと、けっこう冷静。

がん保険に加入していたので、さっそく保障内容をチェック。
診断給付金100万円、入院給付金1日15,000円、通院5,000円。おおお、100万円だと。何買おうか。

化学療法で毛が抜けたら・・・バブル時代に買ったロングヘアの人毛ウィッグの出番だーい。すごく高価なウィッグなのに、ほとんど使わずしまいこんでいました。あれをかぶって黒マント着たらかっこいいかも、と悦に入ったりして。(死蔵していたのは、全然似合わなかったからだということを忘れておった。)
ウィッグ

数日後、2年前検査を受けた乳腺病院を訪ねました。
内容は、マンモグラフィとエコーと触診。
一次検査のマンモは上下にはさんで撮影しましたが、精密検査では縦横斜め。えらく回数多かった気がします。
エコーは右上を特に念入りに見ていたような。
最後に診察室で触診。担当は若い女性医師でした。

結果はその場で知らされまして、がんの心配はないとのこと。費用は3割負担で3,500円。
保険成金の夢はあえなく打ち砕かれました。密かにもくろんでいた、がん闘病ブログやがん生還体験記などもボツ。

マンモグラフィは誤作動というか誤認識が激しく、ヘタすると半数くらい間違った結果を出すという頼りない機械です。そのせいで無駄な時間とお金を空費してしまったと、腹立たしい気分。
とはいえ、ここでたとえ異常があっても、直ちにがん宣告されるわけではなく、生検という痛そうな検査が控えています。それが怪しい結果でも、いざ手術して開いてみたらがんではなかったという、切られ損もまれにはあるそうな。
大勢の日本人ががんで死んでいるわりに、がんへの道は細いのです。この程度の費用と苦痛で済み、ラッキーだったとしましょう。

がんとの正しい付き合い方

それから7年。健診や検診のたぐいはいっさい受けておりません。

あの時がんと診断されなくてほんとうによかった、もしがんだったら大変なことになってただろう。このごろそう実感するようになりました。
えっ、それって当たり前の、ふつうの心理でしょ。何を今さら。

いえいえ、おおもとの理由が違うのです。

あのころの私は、がん、特に乳がんは恐れるほどの病気ではないと思っていました。
なぜって、早期発見で早期治療すれば90%完治と聞いていたからです。乳房再建技術も進歩しているし。
いろんな人が体験談を書いていて、ときには悲しい帰結も見聞きはするけど、自分ががんで死ぬなんて信じられない。って感じ。

今の私。がんが怖くないのに変わりはないが、がんの治療は恐怖の対象です。早期でも臓器やリンパ節などごっそり取っちゃうでしょ。取り残しを見逃すよりましだとかで。
しかる後には副作用ばっかりで効き目のない抗がん剤をバンバン投与。イレッサの裁判で垣間見えた抗がん剤の認可条件・・・2割の患者に腫瘍縮小効果が見られたからだと。8割に効かない薬なんて存在価値があるのか。

もし今後早期がんが見つかったら、私は放置します。経過観察という手もあるが、それって医療がかかわるから、定期被ばくをまぬかれず、悪化や別の発がんを招くおそれがあるし、医者からは治療しろしろとしつこく脅されそう。
もし末期がんになったら・・・あきらめてご心中ですわね。現在の医学で末期がんは治せません。だからこそ国民の3割ががん死しているのです。

どこかで読んだのは、がんとの闘いに敗北はないのだ、と。免疫力でがんを撃退すれば一勝。あちこち転移して命がなくなれば、がんだって死ぬんだから引き分けじゃん。

せっかくがんを見つけても治療しないなんて、爆弾を抱えて生きるようなもんじゃないの?
だいじょうぶです。がん検診を受けなければ、がんが見つかる可能性はゼロに近い。知らぬが仏ですよ。がん保険も解約しました。

早期がんを放置してたらいずれ末期がんになるから、始めから心中と同じじゃないの?
どっこい、末期がんは最初から末期がんであり、早期がんはいつまでも早期がん、ときには消滅するらしいのです。

健診否定本

こんな考え方に傾いたのは、このごろやたら目につく(私の目だけ?)医療否定本、健診・検診否定本の影響が大でしょう。

ベストセラー『大往生したけりゃ医療とかかわるな』の著者・中村仁一は、できることならがんで死にたいと言い続けています。
私個人はこの人の主張にはほとんど不賛成です。近親者たちが悲惨な、苦悶の死を遂げ、ご本人も長年心臓発作に苦しみながら(そのわりには超元気で活躍中)、自然死は穏やかだ安らかだなんて、どのツラ下げて言えるんだっての。
それでも、老人にがん治療は不要という意見はもっともな気がします。

船瀬俊介は2010年に『ガン検診は受けてはいけない!?(徳間書店)』『クスリは飲んではいけない!?(徳間書店)』を出しています。この人はかなりいかがわしい印象がありまして、1、2冊読んで納得するのは危険です。
別に、医者じゃないからと差別するわけではありません。それに私がいかがわしいと感じたからって、その人が間違ったことを言っているわけではないのです。検診が医療産業の振興に貢献しているという説には同感したいし、診断ミスで苦しみ損をした人はおおぜいいるはずです。

いかがわしい医者といえば、近藤誠。なんといっても否定教の教祖様であります。『がんもどき理論』や「がんは放置せよ」の人です。
私が最近読んだのは『健康診断は受けてはいけない(文藝春秋/2017年)』。

欧米かぶれが気になるし、論文やデータの採用がやや恣意的に見えます。日本男性の平均寿命が女性より短いのは、職場検診でクスリ漬けにされるからだと、根拠もないことを平気で書くし、有名人・芸能人の実名を出してがん治療さえ受けなければ死なないで済んだなどと、あとからならどうにでも言えるようなこともいろいろ。
本はじゃかじゃか売れるし、セカンドオピニオン料でがばがば儲けているし、怖いもの知らずの放言が目立ちます。そりゃあ、放置してもがんで死なないとは言ってないから、アナタの助言に従って放置したら死んだじゃないかと訴えられる心配もないもんね。
やっかみからか、名声にたかろうという魂胆からか、「近藤誠否定本」を出す人々さえいる始末。それを受けて、本人も『近藤誠を疑え』などとノリノリ。

『検診で寿命は延びない(PHP研究所/2010年)』『医者の私が、がん検診を受けない9つの理由(三五館/2016年)』を書いたのは、予防医療学の岡田正彦。

内容は近藤とほぼ同じで、論文や文献も重なっています。ただ、書き方は腰が引けているというか、近藤ほど明快ではない。『医者の私が』という個人的なタイトルにしたのも、その表れでしょう。だからこそ真摯な印象を与えて、得してるかも。
この本の『がんの運命は最初から決まっている』という章に、顕微鏡検査でも発見できない転移を遺伝子分析で見つけることができるようになったという説明があります。検診で発見できないような超早期極小がんでも、すでに転移しているものがあるとのこと。そういう悪質ながんは、どんなに早期に治療しても手遅れなのです。
これって、がんもどき理論と同じじゃない。

『65歳からは検診・薬をやめるに限る!(さくら舎/2017年)』を出した名郷直樹も、がんは早く見つけても遅く見つけてもいっしょ。むしろ遅く気づいたほうが、それまではハッピーに過ごせる。みたいなことを書いています。この人の本は4冊読んだけど、どれも似たり寄ったりで重複も多く、どの本に載っていたのか定かではありません。
65歳前なら検診を受けたほうがいいと言ってるわけでもないけど、大腸がんや子宮がんなどは推奨しています。

そのほかにも健診・検診を否定する医師や有識者たちが増えているのは事実です。
しかし一般人の認識は甘く、ひとりの芸能人が「たまたま検診を受けたら早期がんが見つかって命拾いした」などと発言すれば、どどっと検診に群がる程度のものらしい。

がん検診は基本的に任意受診だから受ける人は意外に少ないようです。
しかし職場健診や住民健診は数千万人が受けざるを得ません。これで高血圧・高血糖・脂質異常などを指摘され、薬を処方される人々が続々。何も症状がない人々に保険で薬を飲ませ続けたら、医療産業振興よりも前に、医療経済破綻に陥るのでは?

私はいわゆる生活習慣病とはかかわりないような生活をしているつもりだから、一般の健診も必要ないと思っています。医療費軽減のため日本経済に貢献してるんだから、1万円の検査を500円で、なんて文書を送ってくるよりも、差額の9,500円を現金支給してほしいよね。

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