苦い経験

おいしさの人類史』(ジョン・マッケイド著/河出書房新社)という本は、非常に面白く含蓄に富む内容なのに、あまり売れそうにない印象。
この邦題は、原題(TASTY:The Art and Science of What We Eat)以上に中身を適切に表していると思えます。ただ、お軽い現代日本人の手を伸ばさせるのを邪魔しているのが「人類史」という固い言葉でしょう。『今解き明かされるおいしさの秘密』とか『うまみが凝縮された本』とか、ちょっと煽ってみたらどう? 河出さんには無理かな。
『人類初のひと噛みから「うまみ革命」まで』という副題がついています。この「人類」とは5億年も前の生物。人とはいえないでしょう。

苦いブロッコリー

『第3章 | 苦味の遺伝子』に、ブッシュ大統領親子は大のブロッコリー嫌いという話があります。
そりゃあブロッコリーはおいしい野菜ではないけれど、それを苦いと感じる人がいることに驚きました。
ブロッコリー

この本によれば、苦味を感じにくい人間はアメリカの全人口の1/4だとか。人種によって差異はありましょうが、苦味に敏感な人のほうが圧倒的に多いのです。

自然界の毒物は苦味を持つことが多いので、苦味の感覚は身を守るための重要な素質です。だからこそブロッコリーは、大切なつぼみが食害されないようにと苦みを蓄えたのです。しかし戦略は失敗に終わり、ブロッコリーはファイトケミカルのトップとして食べられ続けています。
苦味に鈍い人間が淘汰されて滅びることはなく、現代人はやたら苦い食品を好むではありませんか。ビール、コーヒー、チョコレートなど。

子どもが嫌う野菜ナンバーワンがピーマン。理由はもちろん苦いから。
輪切りにすると縦切りよりは苦味が減ずるらしいが、私は縦でも横でもピーマンが苦いと感じたことはありません。子どものころはどうだったかしら。ピーマンのようなハイカラな野菜は食べさせてもらったことがないような。
ゴーヤだって全然苦くない。ビールは不味いと思うけど、苦味のせいではありません。

どうやら私は苦味を感じない範疇にいるようです。
生まれつきそうだったとは思えません。幼いころ苦い薬を飲まされて泣いたような記憶があるし、初めて飲んだコーヒーは苦酸っぱかったなあ。

じゃあ、加齢現象?
老人の取扱説明書』には、年を取ると味覚が衰えて

苦味は7倍、塩味は12倍ないと感じなくなる

とあります。何を根拠にそういう数値を割り出したのか不明ですが、ぎょぎょのぎょ。
でもさあ、しょっぱいのは嫌いなんですよ。甘味や酸味もふつうに感じているようだし。
やっぱり、もともと苦味に鈍感で、それが加速してきたのではないかと・・・。

中途覚醒の悩み

加齢現象といえば、睡眠の質が低下するのは困りものです。
私は寝つきはよくて、布団に入るとおおむねすぐに眠れます。でも2時間ほどで目が覚めるんです。入眠から3時間が一番貴重な眠りなのに、それが中断され、そのまましばらく眠れないこともしばしば。やっと眠ったかと思うと、また目が覚める。
合計でどのくらい眠っているか、はっきりしないのですが、布団の中にいる時間は6時間弱。たぶん睡眠時間はそれマイナス1時間ほどでしょう。

目がさえてしまったら、2時でも3時でも「ならお」します。ならおとは「眠れずに悶々とするくらいなら起きちゃえ」の略。そういう日は3、4時間しか寝てないようです。
だからって、昼間眠たいとかだるいわけでもなく、夜はだいたい10時前後に就寝。
昼寝はたまにします。眠くなくても床にゴロンすれば、すぐに寝ついて、20分くらいで目覚めます。

睡眠不足の自覚症状はないけど、知らないうちに睡眠負債がたまりたまって、ある日突然どしんと来るのでは、と不安が離れません。

同年代や年上の知り合いには睡眠剤を常用している人がけっこういます。私はそこまで困ってはいないつもりです。薬に頼りたくないという気持ちもあって。

苦い睡眠薬

いちおう薬は持っています。グッドミンとルネスタ。
数年前、湿疹で某漢方医院を訪ねたら、あなた不眠症だからこれ飲みなさいと処方されました。誰が飲むか、西洋薬出すなんてエセ漢方医じゃねか、といったん捨てたけど、将来役に立つかもとゴミ箱から回収。

そのルネスタを検索したら、すぐに効いて短時間で効果が薄れる入眠薬で、ものすごーく苦いらしいので、よけい忌避したくなったのでした。当時は自分が苦味鈍感症だなんて知らなかったもので。

今回それを飲んでみようと思い立ったのですよ。使用期限切れてそうだけど。どの程度苦いか試したいだけ。

枕元に水と薬を置き、夜中に目覚めたときに飲むことにしました。
ルネスタ

その夜は9時過ぎに寝て、11時半ころ覚醒。飲んだけどちっとも苦くないじゃない。不味いような気はしたけど、小粒だからどうでもいいや。とか思っているうちに寝ちゃって、次に目覚めたのは2時半。いつの間にか眠って4時ころ起きました。わりと眠ったほうです。

改めて検索したら、ルネスタの苦さは飲んだときの味ではなく、副作用でした。のみこんだあとに口の中が苦くなったり、翌朝苦味が出てくるらしいのです。そりゃあ、苦い素材には通常糖衣をかけるから、舌は感じませんよね。
三晩にわたって試し、苦味は全く出ませんでした。眠りの質は悪いままなので、これ以上服用するつもりはありません。
副作用には個人差があるものですが、やっぱり苦味に敏感な人のほうが起きやすいのではないでしょうか。

それにしても、数年前検索したときは、苦い苦いと書かれたページが目立ったのに、今回は苦味の副作用があると記載されたページが見つかる程度でした。健康アップデートとやらで、素人個人ページが淘汰された結果かな。