ハトって、どうしていつも首を振りながら歩いてんだろう。そんな疑問を抱いているあなた。あなたは一般的な観察眼をお持ちです。
その謎にせまる本
観察力が恐ろしくニブい私は、この本『ハトはなぜ首を振って歩くのか』(藤田祐樹/岩波書店)を見たとき、びっくりしました。
えっ、ハトって首を振って歩くの?
「なぜ○○なのか」という構文には、○○が周知の事実だというお約束が、通常はあります。私はそんなことも知らなかったのです。
ハトなんて、外に出ればそこかしこにいます。しかも飛ぶよりも歩いているのを見かけるほうが多い。なんだか気ぜわしい鳥だなあって印象はあったけど、首を振っていると思ったことはありませんでした。
著者は東大出の人類学者ですが、同じ二足動物として鳥の歩行を研究していて、いろんな人からハトの首振り理由について問われたそうです。
世の多くのかたがたは、ハトは首を振って歩いているがなぜだろうと思っているらしいのです。人間は基本的に首を振らずに歩くから、ハトが必ず首を振るのは何か理由があるはずだと。
観察すると、なるほど首を動かしています。ハトの首振りをご覧になりたいかたは動画検索してくださいませ。(私も撮影してみたけど、サイズが大きすぎたし、movファイルなのでややこしくて放棄。そのうち余裕ができたらアップロードするつもり。)
国語的問題
まず「首」というのは頭のことです。頭と胴をつなぐ細い部分(頸)ではありません。まあ、頸も含んではいるけど。
「首を振る」という成句について考えてみます。人間の場合、「誰それは首を振った」と書かれていたら、第一義的には、実際の行為が伴ったかどうかはさておき、否定や拒絶を意味します。つまり「首を振る」は「首を横(左右)に振る」ことの略です。
反対に、肯定や承諾を表すときは「首を縦に振る」という文を使います。「縦に振る」行為は、上下に動かすことではありますが、頸の付け根を基点として、あごをいったん引いてうつむいたあと、まっすぐに戻すって感じですね。
しかるにハトは・・・前後に動かしています。
人間はあんまりこんな動作はしませんよね。顔をぐいっと前に押し出して、それから後ろに引っ込める、てな感じ。
私は「首を振る」のは縦か横くらいに捉えていたので、ハトを見ても首を振っているという認識を持てなかったようです。ただしこの本を目にして、「鳩が首を振るだなんて、あれは前後に動かしてるだけやんか」てなつっこみがすぐに浮かばなかったのは、やはり観察力の鈍さであります。
前後に動かすことだって、頸の付け根が基点でその先がゆれるから、立派に「首を振る」行為でありましょう。
ほか、首を上下に動かす、つまり前をむいたまま頸を伸ばして頭を上に持ち上げ、首を縮めて頭を下におろす・・・鳥はわりとそういう動作をするようですが、これも首を振るうちに入るのかなあ。
ハトはなぜ首を振るのか
理由を書いてしまうと、ネタばらしになっちゃうので詳細は省きますが、要は、そのほうが都合がよいからです。
本書では、その都合がよい事情を、鳥の身体構造、採食行動などとともに、詳しくしつこく解説しています。
とはいえ、ハトの首振りだけでは本一冊には不足です。
カモメやスズメやペンギンはどうなのか、鳥の祖先である恐竜は・・・と、いろんな鳥の歩き方、泳ぎ方に伴う首振りの有無、首以外の部分を振る鳥の動作にも触れており、充実した内容の雑学書です。
カノジョと散歩の途中、ハトを見かけたら、ハトはこうこうこういう理由で首を振るんだよ、なんてうんちくたれて尊敬のまなざしをゲットできるかも。